パワーハラスメントの定義について
[付記]パワーハラスメントの定義について

 2012年1月30日に、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」の報告書の中で、パワーハラスメントの定義が示されました。それによれば、「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」となっています。

 これまでは法的な定義や公式的な定義がないなかで、さまざまに言われてきたパワーハラスメントですが、このことによってある程度公式化され、今後の議論が進められていくことになります。

 日本評論社刊行の『職場でできるパワハラ解決法』や『[新版]パワハラなんでも相談』では、筆者が主宰する「職場のハラスメント研究所」の定義である、「職場において、地位や人間関係で弱い相手に対して、くりかえし精神的または身体的な苦痛を与えることにより、結果として働く人たちの権利を侵害し、職場環境を悪化させる行為」を用いて解説してきましたが、その基本はほぼ変わらないものといえます。

 あえて表現上のちがいを言えば、厚生労働省の定義では、パワーハラスメントの手段となりがちな「業務の適正な範囲を超えて」という部分を明記していることです。しかし、すでに『職場でできるパワハラ解決法』や『[新版]パワハラなんでも相談』でも、その点については「合理的な業務命令の範囲内のものかどうか」という視点から解説してきているところです。

 あらためて言えば、業務上の指導・教育などという場面で、合理性や必要性のない命令をくりかえし強要するような言動は、精神的な苦痛を与えるという意味でパワハラの大きな構成要件になるということです。

 いずれにせよ、厚生労働省の公式的な定義が出されたことによって、パワーハラスメントについての職場での取り組みは喫緊の課題となってきたといえます。本年3月には具体的な取り組みについても報告が予定されており、パワーハラスメントの防止に向けた取り組みが本格的な労務管理のテーマになっていくといえます。


金子雅臣(2012年2月6日記)